
上場企業のクリプト保有を巡る議論
2025年11月13日、日本取引所グループ(JPX)は、上場企業による暗号資産(クリプト)保有に関する一部報道を受け、現在の制度では想定していなかった状況が増えていると説明しました。JPXは、「現時点で新たなルールを決定した事実はない」とした上で、上場企業の開示制度や会計処理のあり方を巡る議論が行われていることを明らかにしました。
暗号資産を保有する企業は以前から存在していましたが、近年は投資目的でビットコインなどを比較的多く保有するケースが増加しています。こうした変化を背景に、クリプト保有に関連する情報開示の扱いが議論されるようになっています。
参考:
日本取引所、暗号資産トレジャリー企業の規制強化を検討-関係者 - Bloomberg
価格変動による企業財務への影響
暗号資産は一般的に価格変動が大きいため、企業が一定量以上のクリプトを保有している場合、財務状況に影響が生じる可能性があります。例えば、保有しているビットコインが評価対象となる場合、価格変動次第で企業の資産額が大きく上下することがあります。
さらに、クリプトの保有比率が高い企業では、暗号資産の値動きが業績の見え方に影響を与える可能性が指摘されています。企業の本業の収益とは別に、暗号資産の価格に左右される部分が増えるため、投資家が企業の実態を把握しづらくなる懸念が存在します。JPXはこうした状況を踏まえ、情報開示に関する議論が進んでいると説明しています。
海外制度の概要 ― 明確化が進む米国・欧州
海外では、暗号資産の扱いを巡る制度整備が徐々に進んでいます。米国では、上場企業がSECに提出する年次報告書(10-K)などで、保有する暗号資産を無形資産として会計処理するルールが適用されています。企業によっては、ビットコインの保有量や取得時期などを比較的詳細に開示している例があり、投資家が関連リスクを確認できる環境が一定程度整っています。ただし、開示内容の詳細さは企業によって異なります。
欧州では、2024年に「MiCA(暗号資産市場規制)」が本格的に施行され、暗号資産サービスプロバイダーのライセンス制度や、トークンの分類基準などが統一されました。これにより、暗号資産を扱う企業に必要な手続きや規制の範囲が明確になり、市場の透明性向上が進んでいます。こうした制度整理が、企業の参入や運用判断を行いやすくする側面があるとされています。
日本で残る制度上の課題
日本では暗号資産の保有自体に制限はありませんが、企業ごとに会計処理の方法が異なるほか、保有量に関する情報開示の基準が明確ではない点が課題として挙げられています。暗号資産の種類や活用方法が多様化している一方で、既存制度がその全てに対応しきれていない部分があるため、企業によって開示内容に差が生まれている状況です。
こうした背景もあり、JPXが企業による暗号資産保有の扱いについて議論を進めていることが注目されています。ただし、JPXは報道にあった「新たな規制の導入」などについては明確に否定しており、あくまで現行の制度の中で議論が行われている段階だとしています。
今後の方向性と市場への影響
今回のJPXの言及は、制度変更を予告したものではなく、クリプト保有企業が増える中で現行制度が対応できていない点が出てきたという状況説明にとどまります。しかし、今後の議論次第では、企業による暗号資産保有の開示方法や会計処理について、より明確な基準が設けられる可能性があります。
制度が整理されれば、投資家が企業の財務状況を把握しやすくなる一方で、企業にとってもクリプト保有のリスクや扱いが明確になり、判断しやすい環境が生まれる可能性があります。今回の議論は、日本企業における暗号資産活用の透明性向上に向けた初期のステップとして位置付けられています。

コメント